親の立場からの、私たちの声明文(2015年8月25日)です。
声明文のあとに、参考資料として「法案の第四章(個別学習計画)」と「学校教育法 第21条」を付しています。 →PDF版



「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」
(多様な教育機会確保法案)に反対する声明文

2015年8月
不登校・ひきこもりを考える当事者と親の会 ネットワーク
代表 下村小夜子

 私たちは、学校で傷つき、疲れ果て、学校に行かれなくなった子どもの姿から、不登校の子どもが条件をつけられずにゆっくり家庭で休むことを第一に保障されること、家庭が子どもにとって安心して過ごせる居場所であることが子どもの命を守ることだと学んできました。
 今、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(「多様な教育機会確保法案」と通称)が検討されており、国会に上程されようとしています。
 この法案は、不登校になって家庭を唯一の居場所にする子どもとその保護者に対して、教育委員会が直接介入し、学習計画の作成とそれに従った「学習活動」を求め、家庭を学校化する危険性のある法案です。不登校の子と親に、今よりもさらに大きな圧力がかかることが強く懸念されるため、私たちはこれに反対します。

 私たちは、「まず、不登校をするわが子のありのままの姿を受け入れる」ことを原点に、以下のことを「子どもの最善の利益」と考え、子どもたちとともに歩んできました。

1.子どもたちに、家などの安心できる環境でゆっくり過ごすことを保障すること。

  学校で、いじめや、体罰をふくむ不適切な指導によって傷つき、学校での居場所を奪われた子どもたちが、不登校をし、心の傷をいやし、失ったエネルギーを回 復しているのです。子どもたちは「安心して学校を休む権利」を必要としています。「休息する権利」は、「国連子どもの権利条約」でも認められています(第 31条第1項)。
2.何をどのように学び、育っていくかは、子どもたち自身が決めること。
  子どもたちには、何をどのように学び、育つかを自分で選び、決める権利があり、大人はそれをサポートする義務があります。大人が一方的に「教育」「学び」 の内容を定め、子どもにおしつけることは、あってはなりません。子どもは生きる営みの中で多くのことを学び、成長の糧とします。私たちは子どもたちが学校 の外で学び、育つ権利を保障されることを求めつづけています。

 しかし、この法案は、子どもの学びと育ちの権利を大きく侵害する法案に なっています。とくに第四章「個別学習計画」に関する下記の内容は、家庭の中に学校教育的視点を入りこませ、家庭を学校化するものです。いじめに傷つき、 懲罰的指導などでトラウマを負った子どもは、PTSDなどで勉強に手をつけられない状態におちいるときがあります。教育委員会の圧力を受けた親が家庭学習 を強いたら、親子の対立が激化し、自傷他害の悲劇が起こる可能性があります。

第四章「個別学習計画」の問題点

・保護者が「個別学習計画」を作成し、教育委員会の「認定」を受ける(第12条)
・個別学習計画は「学校教育法第二十一条各号に掲げる目標」に沿ったものでなければならない(第12条第3項第4号)
・「個別学習計画の実施状況」について、保護者は教育委員会への報告を求められ(第16条)、計画の変更などの勧告を受け(第15条)、それに従わない場合は認定取り消しもあり得る(第15条第2項)
・教育委員会は子どもの「学習の状況を総合的に評価」し、「修了証書」を授与する(第18条)
 
  日本全国の不登校の小中学生は約12万人といわれています(2013年度)。その中でフリースクールなどに在籍している子どもは、調査によると約4200 人です(2015年)。残りのうち、多くの子どもたちが家庭にいると考えられます。文科省の不登校対策の問題点をそのままにしたこの法案は、その多数の子どもたちの現状を知り、必要を聞きとり、それらの子どもたちの立場に立ってつくられた法案であるとは言えません。
 子どもにとって唯一の私的な空間であり、「休息する場」「生きる場」であるはずの家庭を「教育の場」として位置づけ、家庭を学校化し、子どもを管理しようとする、この法案(とくに第四章)の撤回を要求します。



 ★参考1

【未定稿】義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律 「第四章」

第四章 個別学習計画

(個別学習計画の認定)
第 十二条 相当の期間学校を欠席している学齢児童又は学齢生徒であって文部科学省令で定める特別の事情を有するため就学困難なものの保護者(学校教育法第十 六条に規定する保護者をいう。以下同じ。)は、文部科学省令で定めるところにより、当該学齢児童又は学齢生徒の学習活動に関する計画(以下「個別学習計 画」という。)を作成し、その居住地の市町村(特別区を含む。以下同じ。)の教育委員会に提出して、その個別学習計画が適当である旨の認定を受けることが できる。
2 個別学習計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 学齢児童又は学齢生徒及びその保護者の氏名並びに当該学齢児童又は学齢生徒の学習及び生活の状況に関する事項
二 学習活動の目標
三 学習活動の内容及びその実施方法に関する事項
四 当該学齢児童又は学齢生徒の保護者以外の者が個別学習計画に従った学習に対する支援を行う場合にあっては、次に掲げる事項
 イ 当該支援を行う者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
 ロ 当該支援の内容及び実施方法に関する事項
 ハ 当該保護者との連携に関する事項
 五 その他文部科学省令で定める事項
3 市町村の教育委員会は、第一項の認定の申請があった場合において、当該申請に係る個別学習計画が次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、その認定をするものとする。
一 当該個別学習計画に係る学齢児童又は学齢生徒が相当の期間学校を欠席しており、かつ前項第一号に掲げる事項が第一項に規定する特別の事情に該当すること。
二 文部科学省令で定める事項を勘案して、当該学齢児童又は学齢生徒が学校に在籍しないで前項第三号に掲げる事項に従った学習活動を行うことが適当であると認められること。
三 前項各号に掲げる事項が基本指針に照らして適切なものであること。
四 前号に定めるもののほか、当該学齢児童又は学齢生徒の発達段階及び特性に応じつつ学校教育法第二十一条各号に掲げる目標を達成するよう定められていることその他の文部科学省令で定める基準に適合するものであること。
4  市町村の教育委員会は、第一項の認定(第十五条第二項の規定による認定の取消しを含む。)を行おうとするときは、教育学、心理学、児童の福祉等に関する 専門的知識を有する者の意見を聴くほか、必要に応じ、相当の期間学校を欠席している学齢児童若しくは学齢生徒の学習活動に対する支援に係る実務の経験を有 する者の意見を聴くものとする。

(個別学習計画の変更)
第十三条 前条第一項の認定を受けた保護者は、個別学習計画の変更(文部科学省令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは、市町村の教育委員会の認定を受けなければならない。
2 前条第三項及び第四項の規定は、前項の認定について準用する。

(支援)
第 十四条 市町村の教育委員会は、個別学習計画の作成及び当該個別学習計画に従った学習活動を支援するため、学校関係者、第十二条第四項に規定する専門的知 識を有する者、学習活動に対する支援に係る実務の経験を有する者その他の関係者との間において必要な協力体制を整備するものとする。
2 市町村の 教育委員会は、文部科学省令で定めるところにより、第十二条第一項の認定に係る個別学習計画(前条の規定による変更の認定があったときは、その変更後のも の。以下「認定個別学習計画」という。)に係る学齢児童又は学齢生徒の学習活動の実施状況及び心身の状況を継続的に把握するとともに、当該学齢児童又は学 齢生徒及びその保護者に対し、認定個別学習計画に従った学習活動に関する必要な助言、指導その他の支援を行うものとする。

(勧告)
第 十五条 市町村の教育委員会は、認定個別学習計画に係る学齢児童又は学齢生徒の学習活動の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、当該学齢児 童又は学齢生徒の保護者に対して、当該学習活動の実施の方法の改善、当該認定個別学習計画の変更その他の必要な措置をとるべきことを勧告することができ る。
2 前項の規定による勧告を受けた保護者が当該勧告に従い必要な措置をとらなかったときは、市町村の教育委員会は、第十二条第一項の規定による認定を取り消すことができる。

(報告の徴収)
第十六条 市町村の教育委員会は、第十二条第一項の認定を受けた保護者に対し、認定個別学習計画の実施状況について報告を求めることができる。

(学校教育法の特例)
第十七条 第十二条第一項の認定を受けている保護者は、学校教育法第十七条第一項又は第二項の義務を履行しているものとみなす。

(修了の認定)
第十八条 市町村の教育委員会は、認定個別学習計画に係る学齢生徒が当該認定個別学習計画に従った学習活動の実施により義務教育を修了したと認めるに当たっては、当該学齢生徒の学習の状況を総合的に評価して、これを行わなければならない。
2 市町村の教育委員会は、認定個別学習計画に従った学習活動の実施により義務教育を修了した者には、修了証書を授与するものとする。


★参考2
学校教育法 第二十一条

第二十一条  義務教育として行われる普通教育は、教育基本法第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一  学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二  学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三  我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四  家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五  読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六  生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七  生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八  健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九  生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十  職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

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