2015年12月21日(月)に、笠浩史議員(超党派フリースクール等議員連盟立法チーム座長代理/民主党)に会見し、「義務教育の段階に相当する多様な教育機会の確保に関する法律案」の国会上程に対する反対要望書を提出し、「法案を白紙に戻す、もしくは夜間中学のみの法案とすること」を要望しました
 みなさまがお寄せくださった賛同書も、すべて手渡しをさせていただきました。賛同者の総数は308(団体45、個人263)となりました。詳細は→こちら

 この記事の最後に、2種類の反対要望書の全文を掲載します。PDF版は下記をクリックしてください。

 「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」国会上程に対する反対要望書 およびこれに対する賛同書(2015年12月21日)PDF版

「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」国会上程に対する反対要望書(当ネットワークより)(2015年12月21日)PDF版


 笠座長代理との会見では、反対要望書と賛同書を渡し、当ネットワークからの反対要望書を読み上げたあと、笠議員に法案の進行状況について質問をしました。これに対し、
 
・11月13日に朝日新聞に報道された修正案は、馳大臣が文部科学省と作成しているものが、先に報道された。まだ確定した案ではない。
・立法チーム新座長の丹羽秀樹議員より「年明けから自民党内で文部科学部門会議を開き、条文検討を再開する」と聞いている。
・9月15日付「決定稿」もあくまで座長試案であり、議連としての法案の確定は、まだこれからの段階。次の通常国会に上程するかどうかは、法案が固まりしだいということになる。
・自分は夜間中学等義務教育拡充議員連盟で事務局長を務めており、夜間中学についてはぜひ立法したい。フリースクールと合わせての立法は無理があるかもしれないが、一緒にやりたいと考えている。

などの回答がありました。
 こちらからは、

「11月の朝日新聞報道内容では、法案の重点が学校復帰に変わっている。子ども・当事者に大きな影響のあることを当事者不在のまま党内でどんどん変えられては困る」
「あくまで白紙撤回を要望する。私たちは議員連盟代表としての笠議員に会いに来たので、白紙撤回という要求を議連にしっかり伝えてほしい」
「全国各地の不登校の当事者、関係者や、当ネットワークの意見を聴く場を設けてほしい」

などを口頭で伝えました。

 笠議員が退席したあと、ご参加くださったご賛同者のみなさんとミニ集会をひらき、意見交換をおこないました。

 なお、翌22日に超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充議員連盟の合同総会が開かれ、座長代理&幹事長に就任した笠議員から、21日に当ネットワークから反対要望書を受け取った旨が報告されました。

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超党派フリースクール等議員連盟立法チーム 殿
 
「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」
国会上程に対する反対要望書 およびこれに対する賛同書

2015年12月21日
不登校・ひきこもりを考える当事者と親の会ネットワーク
ほか 別紙のとおり


 このたび、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(通称「多様な教育機会確保法案」)が、国会に上程されようとしています。
 しかしこの法案については、不登校・ひきこもりの当事者、経験者、保護者、親の会、障がい児者・子どもの権利擁護および支援の団体、学識者、弁護士、教職員、フリースクール・フリースペース運営者、地方自治体議員など多くの団体・個人が、子どもたちの権利を侵害し苦しめるものとして、懸念と反対を表明しています。
 私たちはこの法案の国会上程に反対し、法案を白紙に戻す、もしくは夜間中学のみの法案とすることを要望します。
 この要望については、別紙のとおり賛同書(署名および意見)が集まっています。総数は団体45、個人263となっています。これらの反対意見を、法案の審議に反映していただくよう、議員の皆様、および関係する省庁の皆様に要望いたします。

以上

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超党派フリースクール等議員連盟立法チーム 殿
 
「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」
国会上程に対する反対要望書

2015年12月21日
不登校・ひきこもりを考える当事者と親の会ネットワーク
 代表 下村小夜子
共同代表 内田 良子

 私たちは、不登校・ひきこもりの当事者・経験者、登校拒否・不登校を考える全国各地の親の会、子どもの居場所(フリースペース)の運営経験者などで構成するネットワークです。
 このたび、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(通称「多様な教育機会確保法案」)が、国会に上程されようとしています。しかし私たちは、当事者としての経験、また親の会の経験から、この法案に強い危機感を抱いています。
 この法案は、不登校になって家庭を唯一の居場所にする子どもとその保護者に対して、教育委員会が直接介入し、学習計画の作成とそれに従った「学習活動」を求め、家庭を学校化する危険性のある法案です。不登校の子と親に、今よりもさらに大きな圧力がかかることが強く懸念されるため、私たちはこれに反対します。反対のおもな理由は以下のとおりです。

1. この法案では、私たちが「子どもの最善の利益」と考える以下の2点が保障されていません。
 -1.子どもが自分の意思で、家などの安心できる環境でゆっくり休むことを保障すること。
いじめや、体罰をふくむ不適切な指導などによって傷つき、学校での居場所を奪われた子どもたちが、不登校をし、心の傷をいやし、失ったエネルギーを回復しているのです。子どもは「自分の意思で、安心して学校を休む権利」「学校に戻るか否かを自分で決める権利」を必要としています。これらの権利は下記3.のとおり「子どもの権利条約」でも認められています。
 -2.何をどのように学び、育っていくかは、子ども自身が決めること。
子どもには憲法で教育を受ける権利が保障され、何をどのように学び、育つかを自分で選び、決める権利があり、大人はそれをサポートする義務があります。大人が一方的に「教育」「学び」の内容を定め、子どもにおしつけることは、学校教育の場で傷つきトラウマを負った子どもには不適切な場合があります。

2. 現行法下では、出席日数の如何にかかわらず不登校は欠席の「正当な事由」とされ、卒業ができます。法案は不登校の子ども及び保護者の権利の後退につながります。これについて、
 ○教育行政学者の結城は「親の教育権は自然権的基本権として憲法上の保障を得ているとするのが、今日の憲法学の通説である」と述べています。
  ○千葉大の羽間他の研究でも、学校教育法第17条の就学義務について、不登校は学校教育法施行令第20条の「正当な事由」に該当することが複数の学説から証明されています。

3. 法案は第1条で子どもの権利条約の趣旨にのっとることを謳っていますが、この法案は子どもが権利の主体となっておらず、その趣旨が生かされていません。また保護者も、教育委員会の認定や勧告、認定取り消しなどに従う形となっています。
 子どもの権利条約には、生存及び発達の権利の確保(2条)、保護者の指導の権利の尊重(5条)、差別の禁止(2条)、子どもの自己に関する事項への意見表明権(12条)、教育を受ける機会の平等(28条)、休息の権利(31条)などが明記されていますが、法案にはこれらの趣旨が見受けられません。

4.「個別学習計画」などにより、公教育のなかでの教育機会の均等(すべての子どもが同じ場で、同じ教育を受ける権利)がそこなわれ、不登校の子どもの分離、差別、学歴や教育内容の格差につながります。

5. 家庭での「個別学習計画」の実施は、家庭の学校化につながります。学校でのいじめや体罰、懲罰的な指導などに心身ともに傷ついた子どもは、学校から避難し、家を居場所にして心身の休養・回復をはかっています。法案は子どもの生きる権利を侵害するものであり、親と子の対立を生み、子どもを精神的に追いつめ、自傷他害等につながる大きな危険性があります。

6.何が多様な教育機会であり、誰がそのサービスをするのかの記載がなく、営利目的の企業が参入する恐れがあります。公教育の場などに市場原理がもちこまれ、子どもや保護者がそれに翻弄され苦しめられる恐れがあります。

7.そもそも、すべての子どもが自由に選択できるオルタナティブ法としてのフリースクール法が求められていたはずですが、この法案は学校教育法の特例法となっており、対象が不登校などの一部の子どもに限られていることは、オルタナティブ教育の趣旨からずれています。

8.約12万人いるといわれる不登校の小中学生のうち、フリースクールなど474の民間施設に在籍する子どもは約4200人、つまり僅か3. 5%です(2015年文科省調査)。さらに別の調査(2015年9月5日朝日新聞報道)では、フリースクールなど211校のうちこの法案に賛成するのは約4割に過ぎず、それをもって「当事者の賛成を得た」とすることは納得できません。
 また、法案の作成過程では当事者サイドのヒアリングが「フリースクール全国ネットワーク」を中心に行われているようですが、他の全国各地の団体・個人の意見はほとんど反映されていません。不登校の多くの子どもたちは家庭で過ごしていると考えられますが、その当事者・保護者の意見は反映されないまま、まさにその子どもたちが対象となる法案が策定されるのは大きな問題です。
 不登校に関する施策の策定にあたっては、拙速を避け、時間をかけて、不登校をして家庭にいる当事者や不登校の経験者、保護者、および当ネットワークなどの不登校にかかわる全国各地の団体・個人の多様な意見をじゅうぶんに聴いてください。

9.フリースクールへ通う子どもがいる世帯への経済支援が今年度の補正予算に計上されました。また地方自治体の条例・要綱でフリースクールに経済支援がなされている事例も多くあります。現行法下でフリースクールが認められ、経済支援が可能なのですから、現在検討されている法案を実現する必要はないと考えます。

 そもそも、1990年代から文科省が不登校の子どもの「心の居場所」を学校につくるという方針で早期の学校復帰対策を始めてから、不登校の子どもが増えつづけ、今も高止まりがつづいています。
子どもたちは学校を休めないことに苦しみ、教育行政は学校を休むことを問題にしています。つまり子どもたちのニーズと教育行政の方向性がまったく一致していません。不登校対策は、子どもの権利条約をふまえて再検討するべき段階にきています。
 不登校の当事者、経験者、保護者である私たちは、子どもを権利の主体にして発想されない新しい法律は必要としていません。
 以上の理由から、下記を要望します。



1.「多様な教育機会確保法案」を白紙に戻す、もしくは夜間中学のみの法案とすること。

2.上記1.の審議にあたっては、不登校をして家庭にいる当事者や不登校の経験者、保護者、および当ネットワークなどの不登校にかかわる団体・個人の多様な意見をじゅうぶんに聴取する場を設け、審議に反映させること。

以上